芸能人の似顔絵Tシャツに肖像権はあるの?

関口慶太関口慶太

Q 芸能人の似顔絵Tシャツは違法? 有名税なんだから肖像権はないのでは?

当社では、イラストレーターに依頼して芸能人の似顔絵を描いてもらい、その似顔絵をプリントしたTシャツを販売しています。
 

その似顔絵は良く似ていると好評なのですが、このような商品・サービスは違法でしょうか。写真ではなく、絵なので問題はないと思います。違法だとすれば、どのような権利を侵害していますか。似顔絵は「モデルが特定できることが簡単な場合」と「モデルを特定することが難しい場合」で結論は異なるのでしょうか。
 

A 肖像権侵害に加えて、パブリシティ権に抵触する可能性もあり

芸能人の似顔絵がプリントされたTシャツは、コレクターグッズとして各種イベントで販売されていますね。私自身も、娘の誕生祝に「ある男性歌手をイラスト化した等身大バスタオル」をプレゼントして頂いたことがあります(笑)。
このように、芸能人の写真でなくとも、その人だと分かる似顔絵には顧客を招く経済的な価値があります。そこで、ご質問のケースでは芸能人の肖像権侵害に加えて、パブリシティ権侵害の可能性もあります。
 

肖像権もパブリシティ権も明文で定められた権利ではありません。まず肖像権とは、「みだりに撮影されない権利」(撮影の拒絶)、「撮影された写真や作成された肖像を公表し利用されない権利」(公表の拒絶)と整理されます(佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務第2版』平成22年・弘文堂)。
「芸能人にはいわゆる有名税があるのだから、肖像権はないのではないか?」という疑問もあるかも知れませんが、そのようなことはありません。芸能人であるか否かにはかかわらず、肖像権自体は誰しもが有している権利です。
 

では写真ではなく、似顔絵でも肖像権侵害の問題になるのでしょうか。
似顔絵は写真と異なり、被写体を機械的に記録するのではなく、多分に主観的に被写体の特徴を捉えて描くことになるので検討の必要があります。
 

裁判例には「その描写の正確性・写実性故に、そこに描かれた容貌がある特定の人物であると容易に判断することができる場合」には肖像権侵害の問題が生じるとしたものがあります(大阪地判平成14年2月19日)。
最高裁(平成17年11月10日)は、イラストの写実性の程度には触れることなく肖像権侵害の問題があることを認めています(ただし、結論として肖像権侵害は否定しました)。
 

このように、裁判所は「似顔絵の場合は直ちに肖像権侵害の問題は生じない」という立場を取っていません。ただ、「モデルを特定することが難しい場合」にまで肖像権の問題は生じないとみるのが自然でしょう。
 

ちなみに、似顔絵の場合は、似顔絵を公表した段階で肖像権侵害の問題が生じると考えられます。現に、先の最高裁の判例も「似顔絵を描かれない権利」があるとまでは言っていません。つまり、イラストレーターが芸能人の似顔絵を単に自宅に飾るような場合は、肖像権侵害にはならないのです。
 


 

次に、パブリシティ権とは「肖像等の経済的な利用に関する権利」をいいます。芸能人の肖像や名前は、それ自体が広告宣伝効果を持ち、顧客を招き商品やサービスの価値を高めることが期待されています。このことから、芸能人の肖像等は独立した経済的価値を有しているといえます。
 

誰がパブリシティ権を持っているかについて明確な線引きはありませんが、俳優・女優、歌手、芸人その他の芸能人やスポーツ選手など肖像等が広告宣伝に使われうる職業の方々はパブリシティ権を有している可能性があります。
例えば、芸能人ではない私の似顔絵には広告宣伝効果はありませんので、私の似顔絵を印刷したグッズが販売された場合、肖像権侵害になりうるとしても、パブリシティ権侵害にはならないと考えられます。
 

ちなみに、パブリシティ権侵害が問題になるのは主に肖像等が商品や広告に利用されるケースです。仮に報道や出版物で芸能人の似顔絵や名前が使用されたとしても、ただちにパブリシティ権侵害になるわけではありません。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。