「お年玉くじの番号が違う!」とクレームが。持ち込みの年賀ハガキに印刷しなかったら違法?

関口慶太関口慶太

Q 年賀状印刷にまつわるトラブル 持ち込みハガキは? パロディはOK?

当店は、お客が自作したイラストを印刷する年賀状印刷をおこなっており、その中で「ハガキ持ち込みサービス」もおこなっています。お客自身が買ったハガキを持参すれば当店にハガキ代を払わなくてよいというものですが、実際にはお客が持参したハガキそのものに印刷するのではなく、事前に店側で購入した4面付ハガキに印刷します。
 
それを気にしないお客がほとんどですが、中にはお年玉くじの番号を控えていて「預けたハガキと違う。刷り直すかハガキを返却しろ」とクレームになることがあります。「持ち込み対応」と謳っている以上、そのハガキに必ず印刷しなければ違法ですか? また、お客の自作したイラストが明らかに有名な絵のパロディの場合は、パロディだから問題ないと言えるでしょうか。
 

A ハガキの変換請求を受ける恐れあり。対策として、持ち込んだハガキ自体に印刷しないことを明示しておこう

今年の干支は丑年ですから、著名なキャラクターや絵画の人物に牛の着ぐるみを着せたパロディイラスト入りの年賀状がたくさん配達されたかも知れませんね。
 
さて、ハガキ持ち込みサービスを提供する印刷業者さんは珍しくありません。しかし、そのサービスの名称と異なり、ほとんどの店舗ではお客が持ち込んだハガキに印刷するのではなく、事前に日本郵便から購入していたハガキに印刷します。
 
中にはハガキ持ち込みサービスという名称でありながら、お客からハガキが届く前に印刷を完了・発送するスピードを売りにする店舗もあるほどです。そこで、お客が特定のお年玉くじの番号を控えていて、その年賀ハガキが当選していたようなケースでは、ご相談のようなトラブルが生じることがあります。
 
まず、お客から預かったハガキに必ず印刷しなければならない、という法律はありません。ただし、お客の持ち込んだハガキ自体に印刷するのではないことをホームページ等で契約上明示しておかないと、当選したハガキの返還請求を受ける恐れがあります。通常、ハガキに物としての個性はありませんが、当選した年賀ハガキには個性があると言えるからです。
 
そこで、持ち込みハガキサービスをご提供するにあたり、実際にお客様が持ち込まれたハガキに印刷する場合は「当店ではお預かりしたハガキに印刷いたします」などと表示し、それ以外の場合は「当店で使用しているハガキに交換して印刷いたします」などと表示すると良いでしょう。
 

 
次に、パロディなら違法にならないかを検討しましょう。
 
本日現在、法律上も裁判例上も、パロディの定義は確立していません。ただ、概ねその要素は①既存の著名な作品を対象としていること、②対象の特徴を残しつつ内容を改めること、または③対象を滑稽・風刺化するものであること、と考えられています(文化審議会パロディワーキングチーム報告書他参照)。
 
絵(絵画、キャラクター等)であれ、文章(キャッチコピー、小説等)であれ、社会には既にたくさんのパロディが流通しています。
しかし、著作物を自由に使用できる例外として私的使用のための複製(著作権法第30条)や引用(著作権法第32条)等が定められているのと異なり、パロディだから著作物を自由に使用できる、という例外規定はありません。
 
現在のところパロディの違法性について正面から論じた最高裁判所の判決は存在しませんが、現在の法制度上、引用に該当しない限り、パロディは著作権侵害になる可能性が高いと考えられます。引用と認められるためには、公正な慣行に合致すること、引用の目的上正当な範囲内でおこなわれること、といった要件を充たす必要がありますが、これらの要件を充たすことも容易くありません。
 
ちなみに、イラストの中身はどうあれ、年賀状はお客様が私的に使用するものだから合法だ……というわけでもありません。なぜなら、私的使用のための複製(著作権法第30条)が認められるケースは、お客様自身が複製することを前提としていますが、印刷業者が複製する場合は、その前提を欠くからです。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。