社員がオリジナルグッズ用に描いたイラスト。著作権は会社にあるの?

関口慶太関口慶太

Q 社員が勤務時間中に描いたイラストの著作権は誰のもの?

当社は、イラストを利用した各種オリジナルグッズを製作・販売しています。
 
グッズに使うイラストはお客様から提供されることが多いのですが、中には当社の社員や役員が描いたイラストを使ったグッズもあります。こうしたイラストの著作者は、当社になりませんか。もし当社に派遣された派遣社員が描いた場合はどうでしょうか。また、当社の業務とは関係なく社員が勤務時間中に描いていたイラストでも、勤務時間中の創作活動なのですから当社が著作者になりませんか……?
 

A 職務著作の規定により、役員や派遣社員が描いたイラストは会社が著作者になる可能性が高い

著作者とは、実際に著作物を創作した者を指すのが原則です(著作権法2条1項1号)。とはいえ、社員が仕事の一環として著作物を創作することは珍しくありません。
例えば、新聞は無数の著作物の集合体であることが分かります。仮に1つ1つの記事の著作者が各社員であるとすると、会社は各社員に記事の利用許諾を得る必要がありますし、自由に編集もできません。より身近な例では、社員が会社アカウントのSNSに投稿した場合にも利用許諾が必要になってしまいます。こうした社員が仕事の一環として著作物を創作した場合でも、必ず著作権の契約が必要なのでしょうか。
 
著作権法は、このような問題について、職務著作という例外を設けました。具体的には、①法人その他使用者(「法人等」といいます)の発意(企画、指示、承諾等)に基づき、②その法人等の業務に従事する者が、③職務上作成する著作物で、④公表名義人が法人等である場合は、⑤その作成の時における契約・就業規則その他に別段の定めがない限り、法人等を著作者とする、というものです(同15条)。以上の職務著作の要件を充たす場合は、特に契約をすることなく、法人等がその著作物の著作権と著作者人格権を有することとなります(同17条)。
 
特に問題になるのが、「法人等の業務に従事する者」の対象です。雇用契約のある社員が対象になることは明らかですが、雇用契約のない役員や派遣社員は「法人等の業務に従事する者」にあたるのでしょうか。
 
この問題については「必ずしも法人等と雇用関係にある者に限られない」と考えられています。最高裁は、RGBアドベンチャー事件において、「法人等の業務に従事する者に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべき」と判断しました(破棄差戻し)。この事件では雇用契約書はありませんでしたが、最終的に職務著作の規定が適用されました。
 
このような前提に立ちますと、雇用関係がない役員だから、派遣社員だから、という形式的な理由で職務著作の成立は否定されないことになります。支払う金銭の額も含めた諸般の事情を総合的に検討して、雇用関係から生じる場合と類似の指揮命令・監督関係があって、法人等に著作権を帰属させることを前提としているような関係があれば、職務著作の規定が適用される可能性があります(参考:「著作権法3版」中山信弘)。したがいまして、ご相談の役員や派遣社員がイラストを描いたケースでも、貴社が著作者になりうるのです。
 

 

他方、「社員が業務と無関係に描いていたイラスト」についてはいかがでしょうか。「職務上作成する」とは、作成することを命じられた場合に限りません。会社から職務として期待されて作成する場合も含まれると考えられます(専門家の間でも議論があります)。しかし、勤務時間中ならこの要件を充たす、というものではありません。ご相談のケースでは、「職務上作成する著作物」とはいえませんので、職務著作にあたりません。この場合は、原則のとおり社員が著作者となります。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。