外注先のイラストレーターが亡くなった後、著作物はどのように扱えばいい?

関口慶太関口慶太

Q 外注していたイラストレーターが死んだ。著作権の相続ってどうなるの?

著作権の相続について教えてください。
当社では、社外のイラストレーターにオリジナルキャラクターを発注して、様々なグッズを製作・販売しています。イラストレーターとの契約は、著作権譲渡代も含めた買い切りではありません。新作グッズを製作・販売するたび、利用許諾をいただき使用料を支払うというものです。
 
ところが、突然イラストレーターが亡くなってしまい、誰から利用許諾を得れば良いのか分からなくなりました。そもそも、著作権は相続の対象でしょうか? 相続の対象になるとして、利用には誰の許諾が必要なのでしょう? また、著作権者が不明な場合の対応も教えてください。
 

A 著作権は相続の対象。相続人が複数いる場合は、原則として全員から利用許諾を得る必要がある

著作権者が亡くなった後になって、生前の著作物をどう扱えばよいのか? という相談を受けることがあります。著作権者が法人に著作権を譲渡していたり、遺言がある場合は、問題はシンプルになりますが、著名な著作権者であっても、生前に著作権を管理しないまま亡くなり、相続人や第三者を巻き込んだ紛争になるというケースも珍しくないのです。
 
著作者の権利には、人格的な側面(著作者人格権)と財産的な側面(著作権)があります。著作者人格権は相続の対象になりませんが、財産的な権利である著作権は相続の対象になります。
著作権者の相続人が1人の場合は良いのですが、相続人が複数の場合は問題が複雑になります。なぜでしょうか。著作権者の著作権は、遺言がない限り、原則として法定相続人の共有となります(これを共有著作権といいます)。そして、共有著作権は、持分の過半数ではなく(民法252条)、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができないと定められています(著作権法65条2項)。つまり、第三者に著作物の利用を許諾するかどうかということは勿論、著作物を共有者自らが利用する場合であっても、原則として共有者全員の同意が必要なのです。
 
したがって、ご相談のようなケースにおいて、著作権者の相続人が1人の場合は、その相続人から著作物の利用許諾を得て、使用料を支払えばこと足ります。これに対し、相続人が複数いる場合は、原則として相続人全員から利用許諾を得なければならないこととなります。実際に、相続人から著作物の利用許諾を得ていたところ、実はそれが相続人の1人に過ぎなかったため、著作物の利用について抗議を受けた、というケースがありますので注意が必要です。
 

 
相続人全員から直接利用許諾を得ることが難しい場合(例えば、相続人の一部が病院や海外にいるために契約が難しい場合)は、どうすれば良いのでしょうか。共有著作権の行使については、代表者を定めることができます(著作権法65条4項)。そこで、相続人に代表者を選任してもらった上、代表者と契約すると良いでしょう。
 
なお、令和元年7月1日以降の遺産分割や相続分の指定などの相続による法定相続分を超える部分についての著作権の移転は、著作権登録制度による登録をしなければ、第三者に対抗(主張)できません。著作物の利用許諾を受ける側としては、不測の紛争に巻き込まれないように、遺産分割協議書や遺言だけではなく、著作権登録がどうなっているかという点も相続人に確認しましょう。
 
また、著作権者不明等の場合を想定した裁定制度があります(著作権法67条)。例えば、相当期間にわたり世間に流布している著作物を利用したい場合において、著作権者の相続人が誰か分からないときは、権利者(相続人)の許諾を得る代わりに、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料に相当する補償金を供託することにより、適法に著作物を利用できるという制度です。
 
ちなみに、著作権者に相続人がいない場合は、著作権は消滅します(著作権法62条1項)。つまり、相続人が不存在の場合等は、著作物を利用できなくなるのではなく、誰の利用許諾も得ずに著作物を利用できることとなるのです。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。