店内のBGM問題。Apple Musicの音楽を店で流すのはアウト?

関口慶太関口慶太

Q サブスクの音楽サービスを使って店内のBGMを流してますが?

店舗の音楽利用について教えてください。昔は店舗で有線音楽放送を流していましたが、数年前にコストダウンのため社長がUSEN社との契約を解除してしまいました。
 
そこで私(店長)のスマホをスピーカーに繋いでサブスクのApple Music の音楽を流しています。社長は「有線は営業用に使えたが、Apple Musicは止めた方が良いのでは?CDをかけたり、FM放送を流したらどうか?」と言います。しかし、お客様から音楽のお金をいただかず、費用は私個人が支払い、かつ私個人のスマホで音楽を流しているだけですから問題ないと思います。
 

A 「個人的な利用に限る」ため、営利目的として店舗では使用できない。

音楽は店舗の雰囲気づくりやサービス提供に役立つだけではなく、従業員の作業の能率にも影響しますので、様々な方法を通じて音楽を流す店舗は少なくありません。ですが、当然音楽も著作物ですから、著作権侵害に注意を払う必要があります。
 
音楽の著作物には作曲家、作詞家、パブリッシャーといった様々な方が関わっていますが、ここではJASRACが音楽著作権を管理しているケースを前提に説明します。
著作権法には、様々な著作権の制限規定があります。その一つが、「非営利(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない)場合は、自由に音楽を演奏(CDを再生することを含みます)できる」ことを定めた、著作権法38条1項です。例えば、自宅でCDを流す場合はもちろん、学校の校内放送で音楽CDを流すことも非営利目的といえますので、著作権侵害になりません。
 
これに対し、店舗で音楽を流す行為は、例えお客様から音楽の料金を集めていないとしても、店舗の営業に役立つという点で、非営利とは言えないと考えられています。
したがって、例え自費で購入したCDであっても、店舗で自由に流すことはできません。JASRACの管理楽曲については、JASRACに使用料を支払う必要があります。
 
では、FM放送を流す場合はどうでしょうか。この場合は、「通常の家庭用受信装置を用いてする場合は、放送を公に伝達することができる」ことを定めた、著作権法38条3項があります。つまりFM放送を市販のラジオでそのまま流す分には、著作権侵害にはなりません。しかし、特定の音楽放送をリピートするために放送を録音して音楽を流す場合は、著作権(複製権)の侵害になりますので注意が必要です。
 
これに対し、有線音楽放送の場合は、市販のラジオではなく、業務用の受信装置を用いて流す必要がありますので、著作権法38条3項の例外が使えません。つまり、店舗で有線音楽放送を流すことは、原則として、著作権侵害(公衆送信権を独占することを定めた、著作権法23条違反)に当たります。
この結論には「有線放送は営業用に使えるはず」という疑問があるかと思います。実は、有線放送事業者は、顧客が営利目的で音楽を利用することを想定し、あらかじめ権利関係を処理しているケースが珍しくありません。
 
例えば、㈱USENは「顧客に代わってJASRACへ著作権手続き・支払いをしていること」を契約上明記しています。したがって店舗で有線音楽放送を利用する場合は、契約業者が権利関係の管理ができているかを確認すると良いでしょう。
 

では音楽ストリーミングサービスの場合はどうでしょうか。
 
この点、Apple MusicやGoogle Play Musicのような個人向けの音楽ストリーミングサービスを店舗で利用することは、著作権法の例外に該当しないだけでなく、規約上も個人的な利用に限ること(=営利目的の利用ができないこと)が明記されています。
JASRACは、個人的な利用に限られている音源ストリーミングサービスが、無許諾で店舗で利用されている事例の調査をおこなっており、悪質な業者に対しては適宜対応をしていることを公表しています。
 
店舗の音楽利用は、無料ならFM放送を利用し、有料なら営利利用可能を前提とした店舗用のBGMサービスの利用が良いでしょう。

 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。