Q 浮世絵や鳥獣戯画など著作権の切れた古典絵画のTシャツを売っても大丈夫?
インバウンド向けに、浮世絵や鳥獣戯画など日本的な古典作品のパロディTシャツを作ろうと思っていますが、大丈夫でしょうか。
著作権は著作者の死後50年で切れるそうですが、それは有名な美術作品も同じでしょうか。ネットで調べたところ、作者の死後50年経っていても作品の所有者である美術館などに申請が必要という情報がありましたので、念のため教えてください。
A 著作権侵害にはあたらないが、作品によっては商業利用が制限されるケースも
著作権法は、著作者等の権利を保護することにより、文化の発展に寄与することを目的とする法律です(法1条)。著作権とは、著作者が著作物の利用をコントロールできる強い権利ですから、これを永続的に保護すると、かえって文化の発展の障害になるかもしれません。
そこで、著作権法は、著作権に一定の保護期間を定めました。現在、保護期間は、著作者が著作物を「創作したとき」から始まり、原則として「著作者の生存している期間+死後70年間」続きます。
ご質問のように、かつての保護期間は50年でしたが、現在は70年に延長されているので注意が必要です。なお、平成30年12月30日の前日に著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されましたので(TPP整備法附則第7条)、既に保護期間が切れていたものについて遡って保護期間が延長されたわけではありません。
「死後70年間」とありますが、保護期間は、著作者が死亡した日の属する年の「翌年の1月1日」からカウントします(法57条)。例えば、ドラゴンボールの著作者である鳥山明先生は、令和6年3月1日に亡くなられました。ですから、鳥山明先生の作品の著作権は、令和7年1月1日から70年後まで保護される計算となります。
以上は、原則的な話です。無名・変名の著作物(周知の変名は除きます)、団体名義の著作物、映画の著作物の場合の保護期間は、原則として公表の時からカウントされますので、著作者の存命中であっても保護期間は進行します。
例えば、『Mr.Children』の曲は、ボーカルの『桜井和寿』名義の作詞作曲のものがほとんどですが、もしバンド名義(団体名義)の曲があった場合、その曲は公表の時から保護期間が進行するため、バンド名義の曲の方が保護期間が短くなるのです。
保護期間を経過した著作物は、著作権が消滅することにより、社会全体の共有物と位置づけられ(これを「パブリック・ドメイン」といいます)、誰でも自由に利用できるようになることが原則です。
以上の検討を踏まえますと、浮世絵や鳥獣戯画など日本的な古典作品の著作権は、保護期間を経過していると考えられますので、これをパロディTシャツに利用しても著作権侵害になりません。
ただし、パブロ・ピカソの作品のように、古典と思われる作品でも著作者の死後70年経過していない作品も珍しくありませんし、また「保護期間の戦時加算」という独自の規定があるので、海外作品をパロディに利用する場合は特に注意が必要です。
また、ご質問のように、保護期間が経過して著作権が切れている美術品であっても、所有者が財産として管理している場合、撮影禁止や公表・商業利用が制限されているケースがあります。例えば、美術館で所属作品を撮影することが許可されていたとしても、その写真の商業利用が許可されているかは別です。
海外のケースですが、令和4年10月、イタリア・フィレンツェ市の美術館が、所蔵する古典美術作品をモチーフとしたTシャツ等の無断販売行為に対し、販売中止を求めて提訴した例があります。古典の美術作品がパブリック・ドメインとなる場合でも、著作権以外の法律やルールに基づき商業利用が制限される場合がありえるのです。
パブリック・ドメインを利用する場合は、原則として著作権上の問題はありませんが、無用なトラブルを回避するため、実際に美術館の利用規約を確認することが望ましいでしょう。
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