
Q 納期に遅れたら「前受金を倍返ししろ!」これって、法律で決まってるんですか?
前受金について相談です。当店では、Tシャツプリントで来店するお客様から、注文金額の半額を前受金として頂いています。
ある注文で、当店のミスで納品が遅れたことがありました。お客様が大変お怒りになりましたので、「代金を頂かない=前受金は返金すること」をご提案したところ、お客様から「民法で手付金は倍返しと決まっているので、前受金を倍にして戻せ」と言われました。
その時はお客様に言われるがままに倍返しをしましたが、本当に民法で前受金の倍返しは決まっているのでしょうか?

A 民法では納期遅れの違約金として手付金を倍返しせよ、と定められていない
例えば不動産売買契約の場面で、「手付倍返し」という言葉を耳にしたことがあると思います。実際に宅地建物取引業法の中には手付金について定めた条文があります。ただ、もし日常的な売買契約の場面でご質問のような法律(納品が遅れたら前受金の倍返し)があったら、うかつに前受金を頂くことはできませんね。
ご相談の件のお客様は、民法557条1項の「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない」を指しているのだと思います。商法には手付金について明文の定めがないので、貴社にも原則として民法557条1項が適用されます。ただし、この条文をよく読むと、ご相談の件とは法律の適用の場面が異なることが分かります。
手付金の役割には、主に「解約手付」(民法557条1項が想定しているもの)と「違約手付」(債務不履行があった場合にその没収をし又はその倍額を支払うという趣旨で交付されるもの)があります。「違約手付として交付した手付金に解約手付の意味も有るか」というやや込み入った議論もありますが、あくまで両者は適用の場面が異なります。
民法557条1項はあくまで「売買契約の当事者が手付金を交付するにあたり、特に反対の意思を示さない場合は、手付金を解約手付として解釈しますよ」という、解約手付の定めです。債務不履行の場合の違約手付を定めたものではありません。
したがって、民法には売買契約の解除の場面(履行着手前に限定)で売主が手付金を倍返しすることを定めた条文はありますが、納期遅れの違約金としての手付倍返しを定めた条文はありません。仮に貴社が受け取った前受金が手付金に当たると解釈したとしても、違約の場合の手付倍返しは民法で定められていないのです。
さらに述べますと、そもそも売買契約の前受金が当然に民法の手付金に当たるとは限りません。
現実の商慣習上も、手付金と単に売買代金の一部を支払う趣旨で渡される前受金(内金)は区別されています。例えば、前受金の領収書が単に「前受金」となっていたり、契約の解除に触れることなく、単に「売買代金の一部に充当」と書かれていた場合は、その前受金は手付金ではないと考えられます。

では、ご相談のようなトラブルを回避するために、今後どのようにすれば良いかについてご提案させていただきます。
それは、①前受金を受領するにあたり、契約書や申込書類に「前受金」又は「内金」と明記すること。②契約書や申込書類に、契約の解除や貴社の違約(例えば納期の遅れ)の際も前受金の全部または一部のみ返還することを明記すること(=倍返しと異なる定めをすること)。③前受金を受領する際、領収書に「売買代金の一部として」と明記すること、です。
このようにすれば、売買契約の当事者間において、前受金が解約手付にも違約手付にも当たらないことが明らかになります。民法557条1項は強行規定(必ず適用される規定)ではないので、当事者はその規定と異なる特約を定めることができます。ですから、仮にお客様が前受金を手付金と誤解されたとしても、契約書や申込書類の規定が民法に優先して適用されることになるのです。
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