納期遅れのクレームに応じるべき?

関口慶太関口慶太


 

Q 「今すぐ飛行機で持ってこい!」納期遅れのクレームに応じるべきなの?

当社は大阪の印刷業者です。福岡のお客からチラシ印刷の注文を受けたのですが、当社のミスで納期に遅れてしまい、お客は「飛行機で持ってこい!」とご立腹。チラシはイベントに使うようなものではないので、遅れても影響はないのですが「ペナルティーだ」とのこと。
 
このときは段ボール箱を抱えて新幹線で持って行きましたが、一般的にこのような場合、お客の言いなりに持って行かねばならないのですか。また、このような事態を防ぐために、注文書に盛り込むべき条項がありましたら教えてください。
 


 

A 「納期」「損害賠償」「免責」の条項を最低限入れましょう

 
今回は御社のミスがあったようですが、どんなに納期を守ろうとしても、不測の事態は起こるものです。ましてや、郵送を必要とするご注文では、御社の手の届かないところで発生する問題もあるでしょう。
 
注文書に盛り込むとなると、記載できる内容は限られますね。そこで、最低限の条項を「納期」「損害賠償」「免責」の点からご紹介します。
 
まず、「納期」についてお話します。納期とは、一般的には「商品がお客様の指定する場所に納入される期限」を指します。
しかし、郵送を必要とする場合、御社がお客様にお約束できるのは「運送業者に商品を引き渡す日」であると考えられます。そこで、注文書には、「納期は、弊社が運送業者にご注文いただいた商品を引き渡した日をいいます」と記しましょう。
 
もし「商品がお客様に届く日」も記載する場合は、これを「予定日」とします。その上で、「道路状況、天候、自然災害その他の事情が発生した場合、お届けが予定日より2~3営業日遅れる可能性があります」と記しましょう。
 
次に、「損害賠償」について。民法の損害賠償の範囲は、原則として「債務不履行と相当な因果関係がある範囲」とされています(民法416条1項)。このままでは、損害賠償額の上限が分かりませんね。そこで、次のような条項を入れることで、飛行機で持って行く必要があるか判断できます。
「納期に遅延した場合の損害については、弊社の故意又は重過失によって遅延した場合を除き、商品の価格の限度内で賠償します」。
こうすることで、損害賠償額の上限を設定できます。時期や航空会社にもよりますが、伊丹空港~福岡空港の路線は、往復4万円を超える場合もあります。このような条項を設けることで、飛行機代と損害賠償額、いずれを支払う方が御社にとって損失が少ないか、判断することができます(もちろん、信用の観点からも遅延しないに越したことはありませんが……)。
 
他には、次のような条項も考えられます。「納期に遅延した場合の損害については、弊社の故意又は重過失によって遅延した場合を除き、1営業日当たり商品の価格の〇%とします。ただし、商品の価格の限度とします」。
いずれも損害賠償額の上限を予定しており、御社が不測の損害を被ることを防ぐために必要な条項といえます。
 


 
最後に、「免責」について。免責とは、例えば次のような条項です。
「運送業者の事情、不可抗力の火災、悪天候、自然災害、お客様のご注文事項の過誤その他のやむを得ない事情による商品の滅失、き損又は遅延による損害については、弊社は損害賠償責任を負いません」。
免責条項を設けるなら「弊社はあらゆる場合に損害賠償責任を負いません」という条項の方が良いかというと、そんな訳にはいきません。例えば、消費者契約法上「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項」は無効になります。
 
ところで、今回のご相談のケースにおいて、ご紹介したような条項がなかったら、商品を飛行機で持って行かねばならないのでしょうか。
損害賠償は、現実に損害が生じなければ請求できません。そして、履行遅滞の場合、損害は原則として使用価値(遅延賠償)に限られます。このように考えると、納期に遅れたことは問題ですが、絶対に商品を飛行機で持って行かねばならない、とまでは言い切れませんね。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。