動物園の生き物を撮影して年賀状のデザインを作ると著作権法の違反になる?

関口慶太関口慶太

Q 動物園の生き物を撮影して年賀状のデザインを作ると著作権法の違反になる?

私は年賀状のデザイナーです。年賀状の絵柄には、干支の動物を使うことが常識です。干支は順が決まっていますので、既に再来年(2024)の辰年用のデザインを考えています。デザインのアイデアでは、実物の動物や著作権フリーの画像を参考にしますが、辰年の『竜』は実在しない生き物ですので、水族館のタツノオトシゴを使おうかとも考えています。
 
そこで質問です。私が動物園や水族館の動物を撮影して、その写真を元にイラストを起こしてデザインした年賀状を販売したら著作権法違反になりますか?
 

A 撮影した動物の写真を元に年賀状を作成、販売しても、著作物に当たらない

年賀状といえば干支ですね。辰年は干支で唯一実在しない『竜』の年ですから、竜の絵柄だけではなく、タツノオトシゴ(竜の落とし子)や恐竜のような絵柄まで、多種多様なデザインが楽しめます。
 
さて、私はよく上野動物園に行くのですが、そこでは子供と動物が映った写真を撮影します。ご質問のように、撮影した写真を資料に絵を描く方も珍しくないでしょう。そこで今回は、写真に関わる問題についてご説明します。
 
まず、写真は「写真の著作物」として著作物の例に挙げられています(著作権法10条1項8号)。著作権法には「何が写真なのか」という説明はありませんが、携帯で撮影した写真も著作物に当たることに問題ありません。ただし、創作性が認められないような写真は除きます。
そして、著作者とは、原則として「著作物を創作する者」を指しますので(同法2条1項2号)、絵画の著作者が画家であるように、写真の著作者は撮影者となります。ただし、従業員が仕事で写真を撮影するような場合は、会社が著作権者となりえます。著作者は、著作物を公表したり、複製したり、改変することができます。ですから、撮影者は原則として撮影した写真を複製し、販売することができます。もちろん、写真を元に絵を描くこともできます。
 
しかし、写真の著作物は、被写体との関係を考える必要があります。撮影行為が被写体の著作権を侵害していないか? といった問題があります。
例えば『上野の森美術館に展示された絵画を撮影した写真』はどうでしょうか。著作権法は、複製を「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義していますので(同法2条1項15号)、この絵画を撮影した写真を販売する行為は、絵画の著作者の著作権を侵害しうる行為といえます。そして、当該写真をトレースして絵を描く行為も、その程度や用法によって、著作権(複製権、翻案権、同一性保持権)侵害になりえます。
 
もっとも、屋外(公園のような場所)に恒常的に設置されている美術品は、販売目的がなければ、自由に写真撮影し、公表することができます(同法46条)。
 

また、写真に他人の著作物(例えば、ポスターやキャラクター)が写り込んでしまった場合、その撮影行為は著作権侵害になるのか? という問題があります(いわゆる「写り込み問題」)。
 
この問題は、著作権法改正により、一定の要件の下であれば著作権侵害にならない方向でケアされています。現在では、主として写り込んだ著作物が被写体に付随するものであれば、被写体と分離して撮影することが困難でない場合であっても、当然には著作権侵害になりません。この問題について、「分離困難であることが必要」といった法改正前の解説が散見されますのでご注意ください。
 
ご質問のケースでは、動物園や水族館の動物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」ではありませんので、著作物(同法2条1項1号)に当たりません。ですから、被写体との関係で著作権侵害が考えられないので、撮影した写真を元にデザインした年賀状を販売いただいても、著作権法違反にはなりません(別に動物園や水族館の利用規約の問題も考えられますが、著作権法上の問題ではないので触れません)。貴社のデザインを楽しみにしています!
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。