Q 「白鳳」「貴景勝」はただの名前でしょ? 大相撲の四股名は無断で使えますか。
当社は、オリジナルのタオルを製作して販売しています。そこで、大相撲の四股名を印刷したタオルを製作して、相撲ファン向けにネット販売しようと考えています。
力士の絵柄は入れず、「白鳳」「貴景勝」「遠藤」などを江戸文字の書体で印刷するだけです。四股名はただの名称で著作権はないと思いますし、力士の肖像も使いません。それでも、日本相撲協会に怒られますか……?
A 著名な四股名を使った商品の製作販売は、不正競争防止法違反のおそれあり
確かに四股名は著作物ではないと考えらえます。また、四股名を利用しても肖像権侵害にならないことも明らかです。ですが、本当に四股名はただの名称なのでしょうか。
スポーツ選手の名称を印刷したグッズは、スポーツ興業の貴重な収入源です。相撲もそうです。国技館のオンラインショップサイトをみると、四股名を印刷した「力士応援タオル」が販売されています。このタオルは、国技館の売店はもちろん、地方巡業でも販売されていますから、相撲の重要な収入源のはずです。
こうした観点からも、四股名は、個々の力士を区別して観客を惹きつけるブランドそのものなのです。
さて、名称を保護する法律として、商標法と不正競争防止法の2つが挙げられます。今回のご質問では、この2つの法律に違反しないか考えてみましょう。
まず、商標権についてです。四股名は芸名の一種と考えられますので、商標登録することが可能です(もちろん、四股名が他人の著名な芸名を含む場合など、商標登録できないケースもあります)。ですから、四股名を印刷したタオルを製作・販売することは、商標権侵害の可能性があります。
具体的に商標権侵害に成立するか否かは、印刷したいと考えている四股名が商標登録されているかをJプラットパット(特許庁)で検索してみる必要があります。四股名は日本相撲協会が登録を受けて管理しています。とすると、商標の出願人を「公益財団法人日本相撲協会」で検索すれば、一気に商標登録されている四股名が分かるかも知れません。
特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」
やってみると、「公益財団法人日本相撲協会」の出願人の商標が28件ヒットしました(2019年5月現在)。しかし、四股名らしきものは登録されていません。どうやら、日本相撲協会は四股名を商標登録していないようです。
では、歴代の横綱や大関の名前を直接検索してみましょう。……おや、あまりヒットしませんね。どうやら、日本相撲協会のみならず、多くの力士も自身の四股名の商標登録には積極的ではないようです。未登録商標を保護する規定(商標法4条1項15号等)があるとはいえ、商標登録をしなくて良いのか心配です。
では、商標登録されていない四股名を利用する場合において、「商標権侵害はないから違法ではない」と言えるのでしょうか。
実は、商標登録されていない名称であっても保護される場合があります。不正競争防止法は、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡……する行為」は「不正競争」に該当すると規定しています(不正競争防止法2条1項2号)。
要するに、「力士とは関係がない第三者が、本来払うべき営業努力をすることなく、著名な四股名にただ乗りして経済活動をする行為」は、不正競争防止法違反に問われる可能性があるということです。
では、何をもって「著名な四股名」と言えるでしょうか。不正競争防止法上の「著名」とは、全国的に知られていることを必要とします。横綱、大関、関脇等の名前は様々なメディア媒体で耳にしますし、全国区の知名度があると言っても良いでしょう。また、番付が高くない場合であっても、力士本人のテレビ番組やCMなどメディア出演の有無・頻度も著名性の判断に影響すると考えられるでしょう。
したがって、番付の高い力士やメディア出演の機会の多い力士の四股名を利用した商品を製作・販売することは、不正競争防止法違反のおそれがあります。
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