実印、絵柄入りのハンコに著作権はある?真似されたら訴えてもOK? 

関口慶太関口慶太

Q 「ハンコに著作権はない」ってホント? イラスト入りのハンコを真似されたら?

「ハンコに著作権はない」と聞いたことがありますが本当ですか? 当社では、お客様の名前や役職などが読みやすいよう、文字の寸法や配字を工夫して作成しています。
 

しかし、そのような工夫をしてもいわゆる実用印は当社の著作物ではないのでしょうか。それは絵柄入りのハンコでも同じですか。また、当社では「招き猫の絵柄入りのハンコ」という商品を販売しています。このアイディアを真似された場合、著作権侵害を訴えることはできますか。
 

A 一般的な実用印に著作権はないが、絵柄入りは創作性が認められやすく、著作物に該当するかも

たしかに「ハンコに著作権はない」という話を聞いたことがあります。しかし、ハンコには、個人の契約や会社の事務に使われる実用印(実印、銀行印、役職印、会社印、住所印など)の他にも、篆刻、書画に捺す落款印、年賀状に捺す干支の絵柄の年賀印、駅に置いてある記念スタンプ、美少女キャラを刻印した痛印など多様な種類があります。
 

そこで、この解説では、文字(名前と役職)だけを刻印した実用印と絵柄入りのハンコを例にお答えします。
 

ある物が著作物であるか否かを検討するためには、著作物の定義を押さえることが最も重要です。
 

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。この定義から、著作物というためには「思想又は感情」を「創作的」に「表現したもの」であることが必要だと分かります。
 

「思想又は感情」の要件を充たすためには、高尚な思想や深い感情であることを要しません。
例えば、私の3歳の息子が創作者であったとしても、幼いからという理由で「思想又は感情」は否定されません。
しかし「弁護士 関口慶太」という職印の文字自体には「思想又は感情」は認められません。それらは単なる事実の情報に過ぎません。そして、そのような文字の行間やサイズを工夫して並べても、それは本来的に情報伝達という実用的な機能を求めた結果であり、原則として創作性ある思想又は感情の表現とは認められません。
 

ただし、以上の説明は「文字には著作権がない」「実用目的で創作されたものには著作権がない」という話ではありません。あくまで一般的な実用印を想定しての回答です。
 


 

いわゆるデザイン書体の著作物性が争われた事案において、裁判所は「本件書は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、知的、文化的精神活動の所産ということができる。なお、知的、文化的精神活動の所産といいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは必ずしも関係がないというべきであるから、創作されたものが実用目的で利用されようとも、そのことは著作物性に影響を与えるものではない」と判示しました(東京地裁 昭和60年10月30日)。
 

つまり、「弁護士 関口慶太」という名前と役職からなる文字であっても、書体に創作性が認められる場合は、著作物に該当すると考えられます。そこで、このような創作性が認められた文字を刻印したハンコは、美術品の著作物として認められる可能性があります。
 

では、絵柄入りのハンコの場合はいかがでしょうか。
著作権法上の創作性の要件は、作者の何らかの個性が表現されていれば良いと緩やかに考えられています。創作者を容易に特定できるような、高い独創性や芸術性は必要ありません。そのため、絵柄入りのハンコの場合は、創作性が認められやすい傾向があるといえます。
 

最後に、「絵柄入りのハンコというアイディアを真似されたので訴えたい」とのご質問ですが、残念ながらアイディアそれ自体は著作権法では保護されていません。なぜなら、アイディアそれ自体は「表現したもの」ではないので、著作物とは言えないからです。ただし、絵柄自体の無断使用については、著作権侵害を訴えることができるでしょう。
 

なお、この解説では、「応用美術(産業上利用される美的な創作物)は著作物か?」という点には触れませんでした。この点は別の機会でご説明したいと思います。

 
オリジナルグッズの専門誌「OGBSマガジン」なら、オリジナルグッズの著作権、知財権などの法律問題も掲載中!


 

記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻と2歳の息子と3人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。