Q 人気マンガのセリフだけ使うTシャツ、画風だけ真似たイラストは違法?
当社では、Tシャツなどのオリジナルグッズ製作を請け負っていますが、ドラマやマンガ・アニメに関連するグッズ製作の依頼が珍しくありません。そうすると、中には権利関係が曖昧な依頼があります。
例えば、有名な作品の台詞(「恩返しだ!」「心を燃やせ!」など)には著作権はありますか。ドラマの映像やキャラクターの絵は載せず、台詞のみ使うことを想定しています。
また、絵に著作権があることは当然ですが、有名な画家やマンガ家の画風を真似て描いた絵を利用したグッズを販売することは、著作権侵害になりますか……?
A セリフや画風を真似た絵は著作権侵害に当たらない。判断のポイントは「創作性」の有無
『半沢直樹2』(2020年)、『鬼滅の刃』(2019年~)をはじめ、名作には流行語になるような印象的な台詞があります。私の息子(5歳)が通う保育園の園児達ですら「うまい! うまい!」と叫びながら給食を食べるというのですから、煉獄さん恐るべし。
名作の台詞には、老若男女問わず心を掴むインパクトがあるのでしょう。こうしたインパクトのある台詞は、特定の作品を連想させる力もあってか、台詞のみあしらったグッズを見かけることは珍しくありません。ですが、こうした台詞を無断で利用した場合、著作権侵害になるのでしょうか。
著作権侵害を検討するには、まず著作物の定義に立ち返って検討する必要があります。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条)。
著作権法上、小説、音楽、美術、映画、コンピュータプログラム等が著作物の例に挙げられていますが、著作物であるか否かを判断するには、単に例に該当するかではなく、定義に立ち返って検討することが珍しくありません。
まず、著作物というためには、「創作性」が必要です。他人の作品の単なる複製は勿論、誰でも思いつくようなありふれた表現や極めて短い文章には、創作者の何らかの個性が表れているとは認められないため、「創作性」は否定されます(ありふれた表現の法理)。
「うまい! うまい!」という台詞を例にとると、劇中では煉獄さんのキャラクターと声優の日野聡さんの熱演もあり、そのインパクトは抜群です。しかし、台詞そのものは非常にシンプルで、誰しも日常的に口にする言葉ですから、ありふれた表現と言えます。ですから、「うまい! うまい!」という言葉そのものには創作性が認められず、著作物とは言えない、という結論になります。「恩返しだ!」という台詞も同様と考えられます。
ただし、この結論をもって「台詞には著作権がない」とは断定できません。俳句のように短い文章でも創作性は認められるのですから、「創作性」は台詞に応じて個別に判断する必要があります。
ちなみに、「富士山の登山ルートは幾つもある」というような事実を述べた台詞は、創作性が認められないこともさることながら、「思想又は感情」を表現したものではないという理由で著作物とは言えません。
次に、著作物というためには、「表現したもの」でなければなりません。これは、著作物からアイデア等が除かれる、とも説明されます。アイデアは、「考え、着想、見解、思いつき、工夫」等をいい、それ自体は素晴らしいものですが、頭の中にあるだけでは表現ではありません。アイデアを、ドラマやマンガ・アニメという具体的な表現に昇華することで初めて著作物として保護されるのです。
ここで、作品が著作物として保護されるのであって、画風といった作風自体が著作物として保護されているのではないことが重要です。つまり、有名な画家やマンガ家の作風を真似て描いた絵は、基本的には著作権侵害になりません。
ただし、作風を真似ることは許されても、絵そのものを真似ることは許されません。場合によっては、著作権侵害になるケースもありますので注意が必要です。また、露骨な作風の真似は、例え著作権侵害でなくとも「パクリ」という批判を受けますのでお勧めできません。
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