グッズ製作のノウハウをマネされないように特許権を取得することはできる?

関口慶太関口慶太

Q レーザー加工の数値など、グッズを作る際のノウハウは特許になる?

いわゆる製造ノウハウの特許について教えてください。当社ではグッズを製造する際に、市販のレーザー加工機を使用しながらも独自のノウハウで品質の高い商品を作っています。一例として、透明アクリルにレーザー加工する際は断面を滑らかにカットするため出力数値(設定数値)やヘッドのスピードを細かく調整しています。
 
他社がこのようなノウハウをマネできないように、特許権を取ることはできますか? 特許権が認められない場合、実用新案権ならどうでしょうか。また、著作権のように、何も登録しなくても製造ノウハウが保護されることはないのでしょうか?
 

A 特許として認められるには、そのノウハウが「発明」であることが前提

製造ノウハウをどのように保護して利益を確保するかは、悩ましい問題があります。
 
特許権を取得すると、特許発明(特許を受けている発明)の実施を独占できる上、第三者が無断で特許発明を実施した場合は、これを排除することができます。しかし、特許権の期間は無限ではなく(特許出願の日から20年)、公開されることが前提です。
 
そこで、製造ノウハウの場合はその内容が公開されてしまうことを避けるため、あえて特許出願をおこなわず、秘匿することも戦略となります。大企業ともなると、自社の技術について他社と共有する部分と独占する部分を組み合わせることで、普及と利益率を両立するというオープン・クローズ戦略を取ることもあります。
 
では、どのような製造ノウハウが特許権で保護されるのでしょうか。特許法は発明を保護する法律です。発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)を言います。発明というと、まず「物の発明」が思い浮かぶと思いますが、「方法の発明」も含まれます。そして「物を生産する方法の発明」や「『物を生産する方法』以外の『方法の発明』」(これを「単純方法の発明」と言います。ややこしいですね!)も「方法の発明」にあたりますので、いわゆる製造ノウハウが「発明」の要件を充たせば特許権で保護される可能性があります。
 
ただし、特許として登録されるためには「発明」であることを前提に、産業上利用できるものであること、既存の技術と比べて容易に考え出すことができない進歩性があること、先に出願されていないものであること等といった要件をクリアしなければなりません(特許法29条他)。これらの要件のハードルは高く、「進歩性や新規性があると考えられていた製造ノウハウが、進歩性や新規性を否定された結果、出願内容が公開されるだけに終わってしまう」というケースになると最悪です。
 

 
ところで、製造ノウハウを実用新案登録できるのでしょうか。実用新案法は、保護の対象を「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法1条)に限っています。つまり、残念ながら、製造ノウハウは実用新案登録の対象にはなっておらず、登録することができないのです。
では、特許の登録ができない(登録しない)場合、製造ノウハウは何も保護されないのでしょうか。実は、製造ノウハウは、秘匿化し、営業秘密(技術上の秘密)として保護することで、不正競争防止法の保護の対象にできます。行政の事前審査手続も登録料の納付も不要ですが、秘密管理措置が必要ですから、何もしなくて良いという訳ではありません。
 
加えて、日頃から先使用権(他者の特許出願の時点で、その特許出願に係る発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者に認められる権利)が行使できるように証拠を残しておくことで、他社が特許を出願した場合でも、他者の特許権を無償で実施することができます。ただし、先使用権の立証は簡単ではありません。先使用権の行使を考える場合は、特許庁のガイドラインを必ず確認しましょう。
 
以上のように、特許を出願するべきかは、製造ノウハウが特許として認められるのかという観点はもちろん、経営戦略を踏まえて判断する必要があります。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。