弁護士や検察官が付けるバッジ。そっくりのレプリカを作ってもいいの?

関口慶太関口慶太

Q 弁護士バッジ、議員バッジをコスプレ用に作ってほしい……これって罪になる?

当店では、印刷からトロフィー、社章、徽章まで色々なオリジナルグッズの注文を受けています。時々『コスプレ用に弁護士バッジを作ってほしい』という注文があります。他にも、検察官バッジ、警察官バッジ(階級章など)や議員バッジの注文があります。
 
当店で作れるのは本物に似たデザインのレプリカですが、こうした注文を受けることにリスクはありますか? ドラマでも弁護士バッジのレプリカが使われていると思いますが、問題ないのでしょうか。
 

A 弁護士バッジのレプリカは商標権侵害になる可能性が高いので、注文を断るのが吉。

昨年、偽の国会議員バッジを付けて常習的に複数の省庁に侵入した人物が逮捕された事件がありました。また、数年前に、警察の階級章を行使目的で偽造・販売した者が、公記号偽造及び偽造公記号使用(刑法166条)で逮捕された、という事件もあります。いずれもバッジの社会的信用が悪用されたケースです。
 
弁護士、検察官、議員といった職業のコスプレで、バッジほど重要なアイテムはないかも知れません。どの職業も服は基本的にスーツですから、バッジが外見上の身分証になるのです。映画「法廷遊戯」特報で、弁護士バッジを付けた主演俳優のビジュアルが話題となりましたが、弁護士バッジや検察官バッジのレプリカは、職業を表す重要な小道具といえます。
 
さて、弁護士バッジは、ひまわりの中央に天秤が描かれたデザインです(弁護士記章規則1条別表)。なお、弁護士バッジは、弁護士会から1人に1つしか貸与されません。紛失すると官報に公告されてしまいますので、紛失してしまったのではないか、という時は、必死で探すものです……。
 
弁護士バッジのデザインは、日本弁護士連合会によって商標登録されています(第1950789号など)。ですから、弁護士バッジとそっくりのレプリカを作成することは、商標権侵害になる可能性があります。弁護士バッジのデザインの商標の範囲は幅広く設定されており、文具や時計に使用することもNGです。
 
このように、厳密に考えると弁護士バッジのレプリカの作成には問題がありそうですが、法廷ドラマの弁護士バッジは、一見してレプリカと分かる似て非なるデザインに変更されているうえ、撮影の小道具に必要、という観点から問題視されていないものと思われます。もちろん、レプリカのバッジを使って「弁護士になりすますこと」は、弁護士法違反ですので止めましょう。
 
検察官バッジは、紅色の旭日に菊の白い花弁と金色の葉をあしらったデザインで、「秋霜烈日のバッチ」と呼ばれています。検察官バッジのデザインは、軽犯罪法で保護されています。軽犯罪法1項15号は、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作った物を用いた者」を拘留又は科料に処する、と定めています。
 
検察官バッジは、『法令により定められた……記章』にあたります。ですから、検察官バッジのレプリカを作成して着用することは、軽犯罪法違反の可能性があります。さらに、警察の階級章が「公務所の記号」にあたるとして偽造者が逮捕された事案もありますので、検察官バッジのレプリカを作ることは、公記号偽造違反の可能性もあります。議員バッジや警察官バッジのレプリカの問題は、検察官バッジのレプリカの場合と同様に考えられます。
 

ちなみに、軽犯罪法では、『法令により定められた制服』も対象となっていますので、例えば警察官の制服を模して作った衣装を着用した者は罰せられる可能性があります。ドラマの撮影現場のように、現場の誰もが本物の警察官と信じない場合はいざ知らず、公道を出歩くのは差し控えるべきでしょう。
 
冒頭の議員バッジの刑事事件のケースも、警備員が本物と見間違うレベルのレプリカであったようですが、こうした本物と見間違うようなレプリカの注文は断るのが吉ですね。

 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。