Q イラストのラフを何度も描き直させられあげく「検討中」で仕事がこない(涙)
フリーでイラストレーターをしています。最近はTシャツに使うイラストのお仕事が増えていますが、困りごとがあります。
私は最初の打ち合わせでイラストのイメージを伺い、それからラフを描くのですが、何度も描き直しを指示されることがあります。ラフを描くのも時間がかかるので負担です……。特に酷いのは、ラフを描いてから「検討中」といって話が消えたり、私のラフを元に別の人に仕事を発注されたりするなど、仕事にならないケースです。
こうしたトラブルを避けるにはどうしたら良いでしょうか。
A 報酬の支払いなど取引条件の明示を義務化した「フリーランス保護法」を活用しよう
「やり直しの指示が止まらない」「いつまで経っても検収が終わらない」「契約書がなく、報酬額も確定していない」というのはフリーのクリエイター(以下、「フリーランス」といいます)がよく直面する問題と思われます。某大企業のAAAタイトル(メーカーの顔となる大作ゲーム)に関する件でさえ、フリーランスから同様の相談を受けたことがあります(酷い話ですが……)。
フリーランスには、労働基準法が適用されません。契約の実態に照らして労働基準法の適用を認めた裁判例もありますが、期待は禁物です。フリーランスを保護する代表的な法律は、下請法や独占禁止法です。さらに、2023年にはフリーランス保護法が成立しました(施行日未定)。ですから、フリーランスの保護を検討する場合、これらの法律の適用を検討することになります。
下請法は、クライアントの資本金が一定の金額以上になる場合に限り適用されるという制限があり、クライアントが個人の場合は勿論のこと、中小企業のクライアントがこの要件を充たしていないケースが珍しくありません。そこで、より適用の広いフリーランス保護法の適用を検討することになります。
フリーランス保護法では、取引条件の明示化が義務化され(これは従業員を使用しないクライアントとフリーランスとの取引についても適用対象!)、報酬の支払いがルール化されました。さらに、下請法同様、フリーランスに責任がないのに成果物の受領を拒むことや、不当な給付内容の変更・やり直しが禁じられます。違反に対しては、公正取引委員会に対して適当な措置を求めることもできます。
クライアントがフリーランスに取引条件を記載した書面やメールを提供することが義務化されたことは重要です。「契約書を交わすべきでしょうが、気軽に依頼していただけなくなるか不安」という気持ちも分かります。ただ、取引条件の合意に難色を示すようなクライアントとの取引は、トラブルになります。法律に頼るだけではなく、フリーランス側でも契約書・発注書の準備が必要です。
取引条件は、必ずしも受注者発注者双方が署名押印した契約書にする必要はありません。発注書の書式をフリーランス側で準備し、必要な項目をクライアントに記入してもらい、それを受け取る方法もあります。メールでも可能です。
取引条件には、基本的には、①業務内容、②完成品の使用媒体、③納品方法(納品データ形式についてクライアントが理解していない場合もあるので確認しましょう)、④納期、⑤報酬金及びその支払時期等を明記した上、特記事項に⑥著作権の帰属先を盛り込みます。
さらに、フリーランス保護法の適用にかかわらず、いたずらに修正指示が繰り返されたり、検収を引き延ばして支払いを遅らされたりする問題を避けるためにも、⑦修正依頼の回数制限や大幅な修正依頼の場合は報酬金を改訂する旨の条項、⑧検収期間を定め、検収期間を超えた場合は完成とみなす旨の条項を設けます。また、クライアント都合で契約が切られる可能性もありますので、⑨中途解約の場合も全部または一部の報酬金が発生する旨の条項、を設けると良いでしょう。
なお、厚労省は、フリーランス保護法の質問やクライアントとのトラブルの相談窓口となる「フリーランス・トラブル110番」を設けています。トラブルに巻き込まれた場合、弁護士に相談されるか、この相談窓口を利用されても良いでしょう。
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