政治家の似顔絵でグッズを作っても大丈夫?

関口慶太関口慶太

Q 岸田首相の似顔絵Tシャツを売りたい。政治家は公人だから問題ないでしょ?

当店では、お客様の似顔絵を描いてTシャツなどの商品にして販売するサービスを提供しています。ところで、政治家の写真や似顔絵をプリントしたグッズを販売するのは、何か問題がありますか? 例えば岸田首相の似顔絵Tシャツとか。
 
芸能人と違って、政治家は肖像を商品的価値として利用しているわけではないですよね。そもそも、政治家は公人ですから、国民が政治家の肖像を自由に利用しても良いのではないでしょうか?
 

A 政治家の似顔絵や写真は肖像権・パブリシティ権侵害にあたらないケースが多い

実際に、政治家が肖像(似顔絵)の商業的な利用の差し止めを求めたというケースがあります。肖像は著作物でも商標でもないので、肖像権侵害とパブリシティ権侵害の可能性を考える必要があります。著作権や商標権と異なり、肖像権もパブリシティ権も法律で定められた権利ではないので、過去の裁判例などを参考に考える必要があります。
 
まず、肖像権からご説明します。肖像権とは、「みだりに撮影されない権利」、「撮影された写真や作成された肖像を公表し利用されない権利」と考えられています。最高裁は、①被撮影者の社会的地位、②被撮影者の活動内容、③撮影の場所、④撮影の目的、⑤撮影の態様、⑥撮影の必要性などの要素を総合考慮して、本人の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合に肖像権侵害を認める、というスタンスを取っています。
 
肖像権は誰もが持っている権利です。「政治家は公人だから、肖像権はないのではないか?」という疑問もあるかも知れませんが、政治家も肖像権を持っています。ただし、政治家の肖像権は、被撮影者の社会的地位の観点から大幅に制限されています。自宅内の盗撮のような不当な撮影の態様の場合はともかく、たいていの場合は肖像権侵害にならないと考えられます。
 
では、似顔絵の場合でも肖像権侵害の問題になるのでしょうか。似顔絵は、主観的に被撮影者の特徴を捉えて描くものです。裁判例に、「その描写の正確性・写実性故に、そこに描かれた容貌がある特定の人物であると容易に判断することができる場合」には肖像権侵害の問題が生じるとしたものがあります。つまり、裁判所は「似顔絵の場合は直ちに肖像権侵害の問題は生じない」という立場ではありません。
 
こう考えると、政治家の似顔絵が肖像権侵害になる可能性はあります。しかし、写真の場合以上にその可能性は低いと考えられます。写真のように撮影の場所、態様はおよそ問題になりませんし、似顔絵それ自体が人格的利益の侵害に至るのは珍しいケースでしょう。
 

一方、パブリシティ権とは「肖像等の経済的な利用に関する権利」をいいます。CMのように、芸能人の肖像は、それ自体が広告宣伝効果をもち、商品やサービスの価値を高めることが期待されています。明確な線引きはありませんが、俳優・女優、歌手、芸人その他の芸能人やスポーツ選手など、肖像が広告宣伝に使われうる職業の方々はパブリシティ権を有していると考えられます。これに対し、一般的に政治家の似顔絵には広告宣伝効果はないと考えられるので、政治家がパブリシティ権を有しているかは否定的な結論になります。
 
以上のように考えると、政治家の写真や似顔絵を商品化して販売することは、肖像権侵害にもパブリシティ権侵害にもあたらないケースが多いと考えられます。
 
ただし、「問題がない」という結論は疑問です。というのも、例えば健康食品の商品包装等に厚生労働系の政治家の肖像が利用されている場合をイメージして下さい。あたかもその製品の品質が公的に保証されているかの印象を与えることは考えられませんか。商品に無断で自治体の首長の肖像が使われていた場合、その自治体の公認グッズのような印象を消費者に与えませんか。
 
こう考えますと、肖像の使用態様や目的によっては、パブリシティ権侵害の問題にもなり得ますし、景品表示法違反(優良誤認)の可能性もあり得ると考えられます。政治家といえど、肖像を何でも自由に利用して良いものではありませんね。

 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。