他社の商標を本のタイトルに入れるのはNG?使用許諾は必要?

関口慶太関口慶太

Q 本のタイトルや取扱説明書の文中に「マイクロソフト」って使うと商標権侵害?

当社はDIY用のレーザー加工機を輸入・販売しています。日本語版の取扱説明書は当社が独自に作成していますが、取扱説明書の文章にマイクロソフト等の他社の商標を許諾なく使って良いのか? と社内で議論になりました。使用するソフトウェアを表示するためなど、正当な理由があれば許されるとは思いますが、「本のタイトルに他社の商標が入っていたら訴えられたというケースもあるので、商標を使用する以上は許諾が必要ではないか」と言う社員もいます。
 
そこで、どのような場合に商標権侵害が成立するのかを教えてください。
 

A 商標権の侵害には当たらない。判断のポイントは、識別を目的として使用しているかどうか

商標とは、事業者が自己の商品又は役務(サービス)について使用する標章(マーク)をいいます(商標法2条1項)。標章には図形や記号だけではなく文字も含まれますので、文字を商標登録することも可能です。そうなると、ご質問のように取扱説明書や本のタイトル(題号)の中に、他社の商標が入ってしまうということは珍しくなさそうです。このような場合でも、商標権者の使用許諾を得なければ商標権侵害にあたるのでしょうか。
 
商標権侵害は「ある商標をどのような態様であれ使用すれば成立する」というものではありません。標章と商品又は役務のどちらかが似ていない場合や、商品又は役務の品質や内容等を表示するに過ぎない態様で使っている場合(商標法26条)には、商標権侵害にあたりません。
 
そもそも商標とは、特定の商品又は役務について使用されるものです。ですから、もし標章が似ている場合でも、標章に対応する商品又は役務が異なれば商標権侵害にあたらない可能性が高いのです。例えば、私が「セキグチ」という標章を「アプリケーション」を指定商品として商標登録したとします。この場合、第三者が「セキグチ」という標章を「服」を販売するために使用したとしても、私の商標権侵害にあたりません。
 
また、商標法26条は商標権の効力の様々な除外事由を定めています。代表的な除外事由のひとつに、自己の肖像又は自己の氏名を普通に用いられる方法で表示するケースが挙げられます(同1項1号)。例えば、「関口」が商標登録されているとしても(通常は登録されませんが)、関口という名前の弁護士(事業者)が、弁護士による法律業務(役務)について自己の名前を表示したいと考えるのは当然です。こうした場合が商標権侵害とならないよう、商標権の効力が除外されています。
 

 
ご質問との関連で重要なのが、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」=「識別力のある態様で使用されていない商標」の効力が除外されていることです(同1項6号)。標章が商品又は役務を識別するために使用されていないときは、もはや商標として使用されているとは言えないので、商標権の効力を除外したのです。
 
ご質問のように、取扱説明書の中で他社の商標を使うケースは、この除外事由に該当し、商標権侵害にあたらないと考えられます。取扱説明書に商標Aが使用されていたとしても、それは取扱説明書の対象とする商品bを説明する記述の一部に過ぎず、商標Aが示す商品aを識別するために使用されているとは言えないからです。また、私の連載原稿に登録商標「鬼滅の刃」(第6208244号。指定商品:漫画本ほか)が登場したことがありますが、商標権侵害にあたりません。私の原稿を読んで「これは鬼滅の刃だ!」と勘違いする人はいませんよね。ご指摘のように、「本のタイトル中に他社の商標が入っていたら訴えられた」というケースはあります。しかし、商標と同一の文字を含む本のタイトルについても、単に本の内容を示すものに過ぎないので商標権侵害にあたらないとした裁判例があります。
 
「どのような使用態様であれば商標権侵害にあたらないか」という問題は様々な事例がありますので、また詳しく取り上げてみたい問題です。
 
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記者プロフィール

関口慶太
関口慶太
今井関口法律事務所 代表弁護士。1981年生まれ。群馬県出身。大阪大学法科大学院卒。企業法務に精通し特に知的財産権に関するエキスパート。妻、息子、娘と4人暮らし。「分かりやすくてためになる記事をご提供したいと思います。よろしくお願いいたします」。