新しい車を買う、新しい家を建てる、結婚する……。そういった人生の節目に欠かせないのがハンコです。
自分の意思を示すために名前を彫ったハンコを捺す。まるで分身のような存在だけに、「他にはない、自分だけのハンコが欲しい」という方もいるでしょう。
そこでこのコラムでは、ハンコ選びに欠かせない「書体」について詳しく紹介していきます。
ハンコにはコレ! な7書体
好みのハンコを購入する時、ハンコの素材にこだわる方は多いと思いますが、実は「書体」も素材と同じくらい重要なポイント。ハンコが自分の分身なら、その名前をどんな書体で彫刻すればいいか、しっかり決めておきたいものです。
ハンコには主に7つの書体が用いられます。永年の慣習を元にした書体で、それぞれの文字に特徴があります。用途によって読みやすさやハンコらしさを出せる書体を選びましょう。
ハンコに用いられる代表的な書体は次の7種類です。
1、篆書(てんしょ)
秦の時代、始皇帝の大臣李斯の手によって統一された文字。正確には「小篆」です。
2、隷書(れいしょ)
前漢時代に小篆が簡略化され生まれた実用的文字。紙の発明前から使われていました。
3、草書(そうしょ)
隷書を簡略化した字「章草(しょうそう)」をさらに略した字。中には判読しにくい文字もあります。
4、楷書(かいしょ)
章草があまりにも簡略化されたため、一点一画を離して書くようになり、生まれた文字です。
5、行書(ぎょうしょ)
楷書と同様、一点一画を離して書くようになり生まれた文字。女性に人気があります。
6、古印体(こいんたい)
日本独自の文字で、「大和古印」と呼ばれることも。風雅な味わいを活かした書体です。
7、吉相体(きっそうたい)
篆書を変形させたもので、流派によって形が異なります。文字が枠に接している事が多いです。
甲骨文字から始まった文字の長い歴史
この7つの書体はどのように誕生したのか、その長い歴史を紐解いてみましょう。
漢字の始まりは中国の殷王朝。「甲骨文字」、いわゆる象形文字の誕生に由来しています。甲骨文字は、自然や物の形がそのまま文字になっているため、「好き」「嫌い」など抽象的な意味を表すものはありませんでした。
周の時代になると、「大篆(金文)」という文字が登場します。青銅器などの金属に刻まれ、主に命令を伝えるために使用されました。この頃は、籀文(ちゅうぶん)や鳥虫篆(ちょうちゅうてん)など、各地方によっていくつもの文字ができました。方言のようなもので、大篆はそれらの総称にあたります。
周の後に訪れた秦の時代は王朝の力が強く、「小篆」が全土で統一されました。その後、前漢の時代になると小篆が簡略化され「隷書」が誕生。そして隷書を簡略化したものが「章草(しょうそう)」となり、さらに略して「草書」になりました。その後、草書は略しすぎて判読できなかったため、「行書」と「楷書」が生まれたのです。
「古印体」は日本独自の文化から生まれた文字です。石や金属に彫られた文字が腐食して、交差している部分が埋まったり、欠けたりして、丸みを帯びた文字が原型となっています。日本独自の文字のため「大和古印」とも呼ばれています。
「吉相体」については、篆書の変形したものと考えていいでしょう。吉相体は誕生した当初から様々な流派があり、その流派に基づいて文字を変形させているため、統一された吉相体というものは存在しません。
ハンコを捺すシーンによって書体を使い分ける
ハンコでよく用いられる、これら7書体。「このハンコにこの書体は使えない」といった決まりはなく、どの書体も自由に選んで構いません。ただし、TPOに応じてハンコを使い分けたい場合は、それらシーンに相応しい書体にしておくといいでしょう。
例えば就職して認印を作る場合、篆書など判読しにくい文字よりも、楷書などの読みやすい文字をチョイスするのがベターです。逆に実印を作る場合は、一般の人が読みにくく偽造しにくい篆書を選ぶのが主流とされています。
不動産や自動車の売買などに欠かせない印鑑登録についても書体の決まりはありませんが、「判読できない文字は不可」とされています。各市町村によって規定が違うので、該当市町村の印鑑登録規定を確認しましょう。